あったかすぎる……故・今井雅之さんのために集まった人たちの思い ~映画初日舞台挨拶後インタビュー 2016.06.09

安堵と何か使命を持って目の前に座っている3名。


出典取材時に関係者により撮影


現在公開中の映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」の初日第1回目の舞台挨拶を終えたばかりの監督・奈良橋陽子さん、キャストの七海さんと岡安泰樹さんです。

出典©2016「手をつないでかえろうよ」製作委員会

◆サプライズ映像に涙

舞台挨拶中にサプライズで流された故・今井雅之さんの映像には、観客はもちろんのこと舞台の上の監督やキャストたちも食い入るようにその姿を眺めていました。ほんの数分の映像にもかかわらず、会場の空気は今井さんの熱く優しいパワーで包み込まれていきました。


出典:吉本興業「よしもとニュースセンター」より


その余韻もあるのでしょう。目の前の3名は少し涙をこらえながらも穏やかな表情を浮かべていました。

今井さんという一人の人間を慕い、尊敬し、集まってきた人たちで完成させたこの映画。既に鑑賞された方はお分かりでしょうが、温かい思いで溢れています。


◆監督は奈良橋陽子さん

今井さんから監督をお願いされた奈良橋陽子さん。撮影をするにあたって、とにかく今井さんが納得のいくものにしなければという思いでいっぱいだったといいます。今井さんは見せかけの演技ではなく伝わる心のある演技をずっと大切にしてきました。今井さんがまだ21歳の頃から33年も一緒にやってきたので、そのことを十分に承知していたそうです。


出典 http://www.doclasse.com

ドゥクラッセ提供


◆今井さんの思いを叶えるために

そんな奈良橋監督の思いと同じだったのでしょう。演者たちもしっかりとその役を自分のものとして生きた演技を見せてくれたそうです。そのため、撮り直しをすることはほとんどなくスムーズに撮影を行うことができたのです。このことからも、映画制作に携わった全ての人たちが、今井さんの熱い思いを叶えようと心を一つにしていたことがうかがえます。


◆今井さんと大親友の岡安泰樹さん

そんなキャストの一人である岡安泰樹さん。今井さんとは公私ともに23年のつきあいだったそうです。映画では、教習所の先生で、障害者の父親役。主人公の夢に向かう姿をあきらめずに温かく応援し続けるシーンは、見ている人たち全員が一緒になって応援したくなるほど感動的でした。


出典 http://ameblo.jp

岡安泰樹さん公式ブログより


◆今井さんの故郷・兵庫県豊岡市

岡安さんは今井さんに出会う前になんとなく立ち寄った土地がありました。見知らぬ土地で見知らぬ人たちに親切にしてもらい、その土地を大好きになったそうです。そしてその後、今井さんと出会ってお話をしていると、その土地が今井さんの故郷であったことを知ったそうです。兵庫県豊岡市です。

そして今回岡安さんは、心に決めていたことがあったとお話してくれました。

試写室では完成した映画を見たけれども、大きなスクリーンで見るのは豊岡劇場だと。

豊岡劇場は、今井さんが俳優となるきっかけとなり、岡安さんが今井さんと初めて芝居を行った劇場という深い思い入れのある場所なのです。

そしてその強い思いは叶うことになったのです。映画公開2日目の朝、豊岡劇場で映画を鑑賞し、その後舞台挨拶を行うことになったのです。

このお話は、岡安さんのブログにも掲載されていますのでご覧ください。

http://ameblo.jp/taijuokayasu/entry-12164558334.html

今井さんの故郷である豊岡市は、コウノトリの飛ぶ町として命を育むことに力を入れています。幸せ、未来を運んでくる鳥とも言われているコウノトリ。この町に生まれ育った今井さんが、その街の思いを引き継ぎ、岡安さんがまた繫げているのは本当に不思議なご縁ですよね。


◆今井さんの存在感

「芸能界でこんなに仲良くなった人は本当にいないですよ~」と優しい笑顔で語る岡安さん。出会って10年くらいは毎日のように一緒に遊んでいたのだそうです。懐かしい気持ちがこみあげてきたのでしょう、その笑顔はその頃を思い出して今井さんと笑い合っているようでした。

それだけ仲の良かった今井さんがいなくなってからも、映画の撮影中はいつも今井さんが見ているような気がしてさみしいと感じたことはなかったのだそうです。ただ、本当に日常のなんでもないときに……例えば晴れの日の青空を見上げた時に涙が出そうになるのだと、そう言うと涙がこみあげてきたようで言葉を詰まらせていました。

そんな岡安さんのお話を隣で聞いていた奈良橋さんと七海さんも、涙をこらえている様子。一人一人が今井さんに対してさまざまな思いを持っているのが筆者にもグッと伝わってきました。


◆たった一度の出会いでも・七海さん

以前インタビューさせていただいた七海さんは、今回の映画のオーディションで初めて今井さんと会ったばかり。

今井さんが演じるはずだった主役になって、その相手役として一緒に演じながらのオーディションが最初で最後の対面だったそうです。

初めて今井さんに会ったときは、とても緊張していた七海さん。でも、一緒に演じていくうちに、今井さんがどれだけこの映画をやりたいのかという熱い思いが伝わってきたのだそうです。

その今井さんの思いを叶えてあげたいと思うと、いつの間にか緊張が解けて七海さん自身もその役になりきっていたとお話してくれました。


出典取材時に筆者撮影


七海さんの初日の思いはインスタグラムにも掲載されています。

https://www.instagram.com/p/BF-d8Varsa_/?taken-by=iamnanaami


◆今井さんの付き人だった福島彰吾さん

舞台挨拶中にサプライズで流された今井さんの映像は、オスカープロモーション所属の俳優でもあり今井さんの付き人としても行動を共にしてきた福島彰吾さんが撮影されたそうです。

今井さんの表情からは信頼関係が、顔は見えなくても撮影している方から優しさが感じられます。

この映像は、今井さんが唯一参加した印象的な桜のシーンを撮影した日に撮られたものでした。

映画の初日のことを元付き人の福島さんのブログにも掲載されています。

http://beamie.jp/?m=user&a=blog&k=detail&target_c_diary_id=258940


出典 http://beamie.jp

福島彰吾さんオフィシャルブログより


◆撮影カメラマンは同姓の今井さん

そして今回の映画撮影のカメラを担当していた方は、偶然にも「今井さん」という名前だったのだと教えてくれました。

この今井カメラマンは、映画「WINDS OF GOD」ではカメラアシスタントしていたので、奈良橋監督の演出などをよく把握していたそうなのです。当時はまだ30代前半でしたが、今やベテランカメラマンとしてこの映画撮影では、亡くなった今井さんの思いを伝えようと一生懸命にカメラを回していたそうです。

映画を見ていると、観客側からの目線とカメラマンの目線が同じになるため、今井カメラマンの温かい思いが見ている人たちにも伝わってきたのかもしれません。


◆今井さんのために集まった数々の人たち

こんな風に今回インタビューを受けてくださった奈良橋さん、七海さん、岡安さんの3名だけではなく、この映画の出演者・スタッフたちは、みんな今井さんと親交のあった人たちばかりなのです。

日舞台挨拶MCを務めたのは陣内智則さん、映画キャストとしては、川平慈英さん、すみれさん、別所哲也さん、藤田朋子さん、LiLiCoさん、中居 正広さん(友情出演)、 板尾創路さんなど多方面で活躍中の方ばかりです。

これだけ多くの人たちが集まったのは、どれほど今井さんがみんなの心に大きなものを与えてきてくれたのかが見えてきます。


◆たった2週間の撮影を可能にしたもの

これだけの顔ぶれが揃うと、撮影のスケジュール調整なども大変だったのではないかと思います。ところが、奈良橋さんはたった2週間でこの映画を完成させたそうなのです。

出演者たちのスケジュールだけではなく、お天気など、さまざまな条件が運よく一致して、2週間という短期間で撮り終えることができたのだといいます。

とはいえ、一つの作品を短期間で完成させるのはそう簡単ではなかったはずです。それでも奈良橋監督は笑顔で語ってくれました。

「楽しかったし、とにかくみんなで楽しもう!って頑張ったんですよ。いろいろと大変だったけど、みんな嫌な顔一つしないで頑張ってくれていた。撮影前にきちんと気持ちを整えてきてくれるから本当にいいシーンがとれたんです。何回も何回も撮ってしまうと新鮮じゃなくなってしまうから映画が面白くなくなってしまうことがあるんです。なので、みんなの気持ちが本当にありがたかった。だから本当に楽しかったという思いしかないです」


◆周りを包み込む奈良橋さんの存在

以前奈良橋さんを単独取材させていただいたとき、筆者や周りの人たちへのさりげない気遣いや優しさでいっぱいでした。この撮影時の思いを聞いても、自分のことよりも周りのことを常日頃考えているのが伝わってきます。

そんな奈良橋さんのことをお二人にも伺ってみました。

「陽子さんって今井さんからずっと聞いていたけど、ぼくらのゴッドマザーなんです。今井さんが言っていたことがよくわかります!!陽子さんといるともう感動の連続で、陽子さんのことは本当にみんなが大好きですよ。現場が最高に楽しくて、楽しくて……こんな言い方してはなんですけど、ずっとこの撮影が続けばいいなと思うくらい楽しかったんです」

と楽しそうに話してくれた岡安さん。

すると隣で聞いていた七海さんも嬉しそうに話しはじめました。

「そうなんですよ!!陽子さんって、みんなを包み込む感じで。本当にあったかくて。みんな大好きです!」

筆者も奈良橋さんに取材をする前にそういう話は聞いていましたが、実際お会いしてそんな気持ちになってしまったくらい誰もがその魅力に惹きこまれてしまうのです。

今井さんが奈良橋さんにこの映画を託したのは、どこか子供のような純粋な気持ちを持ち、自然と人を惹きつけてしまう魅力のあるところが似ているからかもしれません。


◆愛されてきた今井さんの魅力

今となっては今井さんご本人にお話は聞けません。長年、今井さんと一緒に過ごしてきた岡安さんに、今井さんがどんな方だったのかお聞きしてみました。

「今井さんは普段からあのまんまで、熱くて正直な人。気遣いもあって細かいところに気が付いて、温かい。見た目はごっついかもしれないけれど、優しくて、ちょっと寂しがり屋で、可愛い人なんですよ。本当にチャーミング。今回の映画でもずっとそばにいてくれた感じがして。不思議とお天気が良くなったりと、手助けしてくれていたようなことも起きて。今日もきっと来ててみんなよくやった!って喜んでると思います」

岡安さんの言葉に続けて奈良橋さんもお話してくれました。

「こんなにたくさんの人が集まってきて、本当に愛されていて、みんなの心に影響与えているのは本当にすごいと思います。ここまで愛されるって珍しいですよね」


出典 http://ameblo.jp

今井雅之さんオフィシャルブログより


こうして、今井さんが他界したあとでも、映画という作品や仲間たちから今井さんの思いを伝えることができています。

思い続ければ伝わる、叶えられる、愛情があれば人は人を応援する……

生前から熱い人だったとみんなが口をそろえて話していますが、今井さんの熱い思いは確実にこうして伝えられ、その形の一つが今回の映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」なのです。


◆映画公開日は今井さんの一周忌

映画公開初日5月28日は今井さんの一周忌でした。

映画公開日をこの日にしようと決めたのは奈良橋さんの一声だったそうです。今井さんの遺志を引き継いだ奈良橋さんは、とにかく今井さんが亡くなって1年後に公開したいと直感で思ったとお話してくれました。

そして、この5月28日は偶然にも映画封切では定番の土曜日。奈良橋さんは、そんなことは一切考えていなかったので、本当にすごい偶然だとみんなで驚いていたそうです。


◆不思議な繋がり・偶然・ご縁

さまざまなご縁、不思議な繋がりが感じられる映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」は、タイトルの通り、今井さんが差し出した手が温かい思いを繫げています。

そして今回インタビューを受けてくださった3名の方のお名前にも注目です。

陽子さんの「陽」、七海さんの「海」、泰樹さんの「樹」、太陽と海と大地を想像させる3人が集まってくれたことにも不思議な偶然を感じます。

どの言葉も命を育むために必要なものばかり。映画と同様で、この3名の前にいると穏やかで自然のおおらかさのような空気に包みこまれる感じがしたのは決して気のせいではなかったと思います。


◆今井さんへの温かいメッセージ

そんな穏やかな空気の中、今井さんへの思いをみなさんに語っていただきました。

~奈良橋さん~

こんなにみんなが集まってやれたことは彼が絶対喜んでいると思います。心から感謝しているでしょう。

彼の夢を貫く気持ち、どうしてもこの映画をやりたいという思いがあったからこそ、彼自身ができなくても貫けたのだと思います。

雅之は本当にかわいかった。家族のようだった。(川平)慈英、(別所)哲也とかみんな、彼を通じて広がったようなもの。彼は本当にすごい。

彼との約束で、芝居には厳しく取り決めがあったんです。その彼の思いもわかるので、演技面では絶対に妥協しないようにと思ってやっていました。それだけは保障してあげたかったんです。雅之が『コラー!』となるようなところは意識したんですが、みんなのおかげでうまくいって本当によかったです。

~七海さん~

もっとお話ししてみたかったです……

オーディションでしか会えなかったので、そこまで話せなかったのです。

みなさんの話を聞けば聞くほどそう思います。

でも、一度しか会えなかったけど、今井さんファミリーのみなさんと一緒に携われて本当に感謝しています。

これぐらい大きな役は初めてだったので、自分のできることをとにかくやったという感じでしたが、楽しかったです。

~岡安さん~

「良かったね!」ということだけですかね。

とにかく彼が陽子さんのこと大好きだったので、監督として完成させてくれてめちゃくちゃ喜んでいると思います。きっといつも陽子さんの横にいてくれたと思います。今日も会場に来ていたと思うし。

「本当に良かったね!完成したよ!陽子さん凄かったよ!」って。


◆今井さんが繫いだ幸せ

みなさんのコメント、やはりとても温かいですね。

この映画の登場人物たちも一人一人個性がありながらも、みんな温かいのです。

もしかしたら、今井さんが描いた世界は、今井さんの周りに実際にいた仲間たちの素敵なところをいっぱい詰め込んだのかもしれません。

人それぞれ個性はあるけど素敵で、それぞれが応援しあって頑張って生きている、人ってみんないいよね、と。

ふと岡安さんを見ると、とても至福な表情を見せていました。

「幸せそうですね」と声をかけると……

「わかっちゃいました?そうなんですよ、幸せなんです。この場にいること、今井さんを通じて出会えた温かい人たちのそばにいられることが幸せだなぁって」

少し照れくさそうにお話してくれました。


◆温かく幸せに包まれる映画

最初から最後まで温かい空気に包まれたインタビュー。わずか30分でしたが、深くて、シンプルな思いをお聞きすることができました。筆者は今井さんにはお会いしたことはありませんが、映画からみなさんからその思いを繫げていただいたことを幸せに思います。

そんな温かく幸せに包まれる映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」は、現在好評上映中です。

公式サイト 映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」

www.teotsunaidekaerouyo.com


出典©2016「手をつないでかえろうよ」製作委員会


【物語】

主人公は軽度の知的障害者のある男性、真人(川平慈英)。

中学で「特殊」学級に入った真人は、バカにされたりいじめられたりしながらも、

同じ障害のある女性、咲楽(七海)と出会い、ぎこちない愛情表現ながら、

やがて結婚する。しかし、真人は咲楽を守るため、罪を犯してしまう。

咲楽との約束だった新婚旅行を思い起こすように、真人は伊勢神宮へ旅に出かける。

その途中で出会う1人の女性・麗子(すみれ)。麗子の面影に、咲楽の影を見出していく真人。

そして、数奇な運命をたどる真人の人生が回想されていく・・・。

出演:川平慈英/すみれ 七海/岡安泰樹 吉田 敦 勝矢 LiLiCo 藤田朋子/

別所 哲也 中居 正広(友情出演)  板尾創路

監督: 奈良橋陽子 企画・脚本:今井雅之

配給:KATSU-do 

©2016「手をつないでかえろうよ」製作委員会



記事:あなたの物語応援ライター ささきまりこ

パーソナルストーリーメディア 『この空DAY』

自分らしく 自分にしかできないこと 自分が好きなこと、得意なことで 自分の足で歩んでいける笑顔溢れる世界に☆ 一人一人の中にある物語を大切にしています☆