誰もが温かい思いに包まれる映画・今井雅之さん遺作「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」 2016.05.15

2016年5月28日(土)から公開される映画『手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~』は、とにかく温かいのです。

この映画は、見る人も、制作に関わった人たちもみな、川平慈英さんが演じる主人公・尊 真人(たける まこと)のことをいつの間にか好きになっていて、そっと見守りながらも、社会や人、生き方を自分のことに投影させられる全てが一体となる作品です。

そんな気持ちにさせてくれるのには何か理由がありそうです。

川平慈英さん演じる主人公・真人(まこと)


出典(C)2016「手をつないでかえろうよ」製作委員会


(理由1)故・今井雅之さんの脚本、公開日は一周忌

この作品は54歳の若さで他界した今井雅之さんによる脚本です。2010年に自身が原作・脚本・演出・主演を務めた舞台『手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~』を映画化したいと、病気が進行しているにも関わらず脚本を執筆していた今井さん。

日々悪化している病状にどうしても映画化したいという思いから、奈良橋陽子さんに監督をお願いしたそうです。奈良橋さんとは今井さんが大学生の頃からの知り合いで、その後も舞台演出などで親交を深めていた仲。

そんな今井さんからの切実で熱い思いを自分のことのように感じた奈良橋さんは、その思いを引き継いだのだと言います。そして、この映画の公開日である5月28日は、今井さんの一周忌でもあるのです。


出典今井雅之オフィシャルブログより


(理由2)親交が深い人たちによる作品

奈良橋さんだけではなく、川平慈英さん、すみれさん、別所哲也さん、藤田朋子さん、中居正広さんら、豪華キャスト陣もみんな今井さんと親交が深い方ばかり。

特に主演の川平さんと今井さんは、ずっと一緒に芝居をやってきた仲間。川平さんは、どちらかというとCMやスポーツキャスターのイメージが強いのですが、本当はお芝居をやりたくてしかたなかったのだそうです。そんなときに、奈良橋さんからこの映画の主役をやってほしいと依頼され、今井さんの代役をやれるのは自分しかいないと心から湧き出る思いに感謝の気持ちでいっぱいだったとのことです。

友情出演をしている中居さんについても、奈良橋さんからのオファーを快く受けてくれたそうです。その中居さんの演技に込められたエネルギーは力強く、スタッフ・共演者一同、心からの拍手と感謝をしたそうです。

出演者たち全員が、今井さんのことを思いながら、今井さんの遺志を伝えようと、みんなで心を合わせて創り上げられた作品なのです。


豪華キャスト陣(別所哲也さん、藤田朋子さん、板尾創路さん、LiLiCoさん)


出典(C)2016「手をつないでかえろうよ」製作委員会


(理由3)普通じゃないと思えるものが普通の世界

映画の中に登場する人々は、知的障害者、言葉が話せない人、やくざなど少し普通と違う人たちがメインとなっています。普通と思っている人たちばかりの中に、もし一人だけ知的障害者が存在している内容であれば、それは異質に映ったかもしれません。

でも、ほとんどの登場人物が何かしら抱えていて、普通に日々の中で暮らしています。障害があっても一人一人性格も感情もあります。言葉が話せなくても、別の方法で喜びや悲しみを表現しています。やくざでも親であったり、優しさや、改心する心も持っています。

見ている人たちはだんだん気づいていきます。知らず知らずのうちに、自分と違うものを別世界のことと決めつけていたかもしれないということを。

そして、もう一つ。たとえ障害がなくても誰もが劣等感を抱えながら生きていることを改めて考えさせられます。日々の中で劣等感を抱えながらも踏ん張って生きている自分たちと何ら違いはないと思えるのではないでしょうか。


中学生の頃の主人公・真人(まこと)と咲楽(さくら)


出典(C)2016「手をつないでかえろうよ」製作委員会


(理由4)自然・色・音

この映画の中では、自然の風景や音、色が大切にされているのが伝わってきます。いじめ、障害者同士の友情や恋愛、殺人など特別な世界のように思われることが、ごくごく普通の風景の中で行われています。どんな世界にもどんな人にも、時間は平等に流れ、同じ地球という自然の中で生きているのだと感じます。

もしかしたら何回か見ていくうちに、その自然にも何かが見えてきそうです。鳥居と昼間の欠けた月が浮かんでいるシーン。急に太陽が輝くシーン。星でいっぱいの空。草むらの中にあるもの……みなさんは、何を見つけられそうですか?


(理由5)素直

子供のころに出来ていたことが大人になると恥ずかしいと思ってしまったり、いつの間にか忘れてしまうことがあります。この映画の登場人物たちは、それぞれ何かが「無い」という状態がゆえに、人間の本来持っている素直な感情が表現されています。

特に日本人は、無表情とか、動作が少ないと言われています。学校や会社など大勢の中で行動しなくてはいけない場面が多くなっていくと、そうせざるを得ないのもしかたありません。でも、彼らはそれぞれが使える部分を用いて、素直な気持ちを誰もがわかるように表現しているのです。

素直というものは、わがままであったり、情けなかったり、可愛らしかったり、いろんな姿をそのまま見せます。でも、いざというときは自分のことよりも相手のことを思う気持ちを優先にしています。彼らを通して、人の持っている本来の心が思いやりで出来ていることを知らされます。


無邪気な真人(まこと)


出典(C)2016「手をつないでかえろうよ」製作委員会


(理由6)画面から伝わる温度

スクリーンを見ていると、そのシーンを見守るような思いに包まれているのを感じます。小さな子供をビデオカメラで撮影している親のような……そんな温かい空気が伝わってくるようです。そして、スクリーンを見ている自分自身も見守る一人となっていることに気が付くはずです。


(理由7)あきらめない姿

主人公の真人が最後まで夢をあきらめずに挑んだことがあります。そのチャレンジした回数を見ていると、見ている方があきらめそうになります。それでもあきらめない姿に、映画の中の人物、映画を見ている人に関わらず応援してしまいます。そしていつの間にか、そこまでチャレンジしたのだから、絶対できる!大丈夫!と、力強い確信へと変わっていくほどになるのです。 


真人(まこと)を応援する仲間


出典(C)2016「手をつないでかえろうよ」製作委員会


(理由8)桜のシーン

満開の桜が映し出される場面がありました。その桜は、登場人物の咲楽(さくら)と、毎年咲いては散る桜が人生や生き方のことを象徴した場面なのかと思っていました。ところが、後日お聞きしたのですが、この桜のシーンは昨年3月に生前の今井さんが最初に撮影したシーンだったそうなのです。短いシーンではありますがこの満開の桜には深い思いがいっぱい溢れています。


(理由9)赤い色の意味

主人公の真人が着用している物の多くに赤が使われています。景色の中にも、鳥居や太陽など赤いものがとても印象的に映ります。最初は、命や情熱などの思いが込められているのだと思って見ていました。これも後日ですが、赤にも意味が込められていることをお聞きしました。生前の今井さんをご存じの方は、もうお分かりになるかもしれませんね。


赤い帽子と服を着用する真人(まこと)


出典(C)2016「手をつないでかえろうよ」製作委員会


(理由10)手をつなぐことは心の触れ合い

映画のタイトルの中にある「手をつなぐ」シーンは、言葉の無い心のやりとりです。手と手が触れ合うことで、体温だけではなく気持ちまでも伝わってくるものです。

現実世界では、言葉が溢れすぎて、手と手で行われる交流が省かれているのかもしれません。子供には、手をつないだり、ハグをする、頭をなでる、背中を優しくなでる……など手で伝えられる優しいコミュニケーションがどれだけ温かいものなのかわかっています。だから素直に、手をつなごうとしたり、抱きついてきます。

大人になるとなかなかできないことかもしれませんが、もしも言葉にならないときはそんなシンプルで温かい手を差し伸べることでいいんだと思えるようになれそうです。


手をつないである場所へ向う真人と麗子


出典(C)2016「手をつないでかえろうよ」製作委員会

麗子役:すみれさん


(理由11)繋がり

人、命、出会い、思い……すべてがどこかで繋がっていることを、作品からも作品の背景からも感じられます。そして、この映画を観たことで、一人一人のこれからに何か繋がりをもたらしてくれるのではないかと思います。


(理由12)シャングリラ

副題である「シャングリラの向こうで」の「シャングリラ」は「憎しみのない場所」という意味があるそうです。今井さんは亡くなってから理想郷といわれるシャングリラにいて、そこからこの映画作りにも関わり続け、完成した作品を見守っていたのではと思えてきます。


真人と咲楽の幸せは……


出典(C)2016「手をつないでかえろうよ」製作委員会

咲楽役:七海さん


これらの理由を知ったうえで鑑賞すると、さらに深い何かを見つけることができるかもしれません。非日常のようで、見る人それぞれの心に何かとシンクロするものがあるはずです。同じ映画を見ても、どう感じるか、どうつなげていくかは人ぞれぞれです。一人一人の特別な思いが生まれる作品になるのではないでしょうか。自分の住む町、故郷の景色、自分の中にあった忘れていた物……映画を見ていると、その中で自分も生きているような、登場人物たちの友達のようなそんな思いでいっぱいになるに違いありません。

一人一人が違っていい、ただ素直に、繋がりを大切に、あきらめないで生きていくこと、それが笑顔や平和な日々を生み出すことを知っていた今井さんの熱いメッセージなのかもしれません。

「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」は5月28日から全国順次公開予定です。

企画/脚本:今井雅之 映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」

http://www.teotsunaidekaerouyo.com

企画/脚本:今井雅之 映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」5.28お台場シネマメディアージュ他全国拡大ロードショー

【物語】

主人公は軽度の知的障害者のある男性、真人(川平慈英)。

中学で「特殊」学級に入った真人は、バカにされたりいじめられたりしながらも、

同じ障害のある女性、咲楽(七海)と出会い、ぎこちない愛情表現ながら、

やがて結婚する。しかし、真人は咲楽を守るため、罪を犯してしまう。

咲楽との約束だった新婚旅行を思い起こすように、真人は伊勢神宮へ旅に出かける。

その途中で出会う1人の女性・麗子(すみれ)。麗子の面影に、咲楽の影を見出していく真人。

そして、数奇な運命をたどる真人の人生が回想されていく・・・。

出演:川平慈英/すみれ 七海/岡安泰樹 吉田 敦 勝矢 LiLiCo 藤田朋子/

別所 哲也 中居 正広(友情出演)  板尾創路

監督: 奈良橋陽子 企画・脚本:今井雅之

配給:KATSU-do 

(C)2016「手をつないでかえろうよ」製作委員会

公式サイト:http://www.teotsunaidekaerouyo.com



記事:あなたの物語応援ライター ささきまりこ

パーソナルストーリーメディア 『この空DAY』

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