「あのこにいいことありますように」
ほんわりと心に響いてくるような可愛らしい真っ白な天使の言葉。
出典劇団東京演者兄弟会
日々の喧騒や雑音の中から、せつなくて優しい空間へ連れて行ってくれる予感がする1枚のちらし。
昨年他界された今井雅之さんの原作で、川平慈英さんがプロデュースと書かれています。今井さんの1周忌に上映開始後、さらに各地で上映が決定している映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」でも温かい思いを伝えてくれたこの二人。今度は舞台でも大切な何かを伝えてくれそうです。
今回は、故・今井雅之さんの作品「守ってあげたい」を舞台化することに決めた思いやその内容などを稽古場にお邪魔して取材をさせていただきました。
取材にお集まりいただいたのは、川平慈英さんを中心にその日稽古に参加していた以下の皆さんです。
川平さんのほかには、演出の松本匠さん、出演者の北村岳子さん、浜谷康幸さん、横関健悟さん、今谷フトシさん、吉田芽吹さん、七海さん、千葉一磨さん、矢田政伸さん、吉田敦さん、の11名です。
さまざまな活動をされている多忙な中、こうしてほぼ全員が毎日行われている稽古に取り組んでるのだそうです。決して広いとはいえない稽古場に円を描くように椅子を並べ、動きやすい稽古着のまま、一人一人が静かに席に着いて取材に臨んでくれました。
そのお一人お一人の様子が、舞台や稽古に対する熱意や誠意が伝わってきて、取材開始前にも関わらずどれほど大切な舞台なのかということを感じずにはいられませんでした。
出典取材中に撮影
出典取材中に撮影
◆23年前の初演
この舞台「守ってあげたい」は、実は今回が初演ではありません。23年前に行われた初演では、川平慈英さんが主役を演じました。その後何度も再演されるほどの人気のあった作品は、故・今井雅之さんが下積み時代に書きためていた作品のひとつだったのだそうです。
◆初演と同じ会場
今回の舞台が上演されるのは23年前初演が行われた新宿シアターモリエールです。今井さんとの想い出が詰まった劇場で再び新しい「守ってあげたい」が上演されます。
◆再演するきっかけ
ではなぜ、この作品を今回再演することに決めたのかそのきっかけを川平さんに伺ってみました。
「雅之が亡くなってから、日々いろんな思いがこみあげてくる中、これまでの作品を観返していたんです。やりきれなくてお酒を飲みながら、初期の作品である『守ってあげたい』を久しぶりに観ていたら、『この作品をぜひやりたい!やるしかない!』って思いが湧いてきて。いい意味でお馬鹿で、ぶっ飛んでいて、原点のような大きなエネルギーがあって、そんな中にも伝えたい思いがいっぱい詰まっていて……
早速、初演メンバーに相談したところ、みんなもぜひやろうとトントンと話が進んだんですよ」
こうして、映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」とほぼ同時進行で、今井さんの追悼作品の一つとして始動したのだそうです。
出典RISU PRODUCE提供
◆どんなお話?
やわらかいイメージのちらしや、「守ってあげたい」というタイトルからはほっこりとする癒し系の内容をイメージしてしまいますが、一体どんなお話なのでしょうか。
まず簡潔にお話してくださったのは初演から出演されている吉田敦さん。
「子供の時に雷の事故で天国に召された6人兄弟が天国に行ってからのお話。天国では守護霊裁判所の判事官を務めることになり、ある日やってきた男性のことでいろいろなことが起きる……」
とのことです。
ここまで聞くと、やはりしんみりした内容なのかな……と思ってしまいますが、川平さんがこのストーリーへの思いを伝えてくださいました。
「ストーリーやそれぞれの役どころは面白いので、そこは思い切り笑ってほしい。そんな中にとっても深刻で大切なものがあるので、最後は泣けると思います。雅之の作品は、戦争とか、神様、死といった言葉が良く出てくるけど、笑わせることにも物凄いエネルギーを費やしている。本当にばかばかしいくらいに。合コンのノリをそのまま舞台前半に盛り込んで、役者エネルギーを全開にして演じる。そして最後にはしんみりと泣かせる感じで……一見シンプルなようだけど、ちゃんと考えさせられるテーマがあるんだよね」
確かに、映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」も、負の部分を持ったさまざまな人たちが明るさの中で深刻なことにぶつかりながら、最後は観た人たちの心の何かに触れて感動を呼び起こすものでした。
「雅之はネガティブなことを一切言わなかった。とにかくみんなを笑わせたい思いでいっぱいだったね」と吉田敦さんも、懐かしそうにつぶやいていました。
◆初演との違い『上演時間』
そんな今井さんの思いが詰まった作品ですが、今回再演するにあたり初演50分くらいだったストーリーを2時間弱の脚本にリライトしてもらい、初演とはまた一味違う作品となったのだそうです。
今回脚本を担当してくれたのは、今井さんが尊敬、慕っていた映画監督、脚本家、テレビ ドラマの演出家、小説家でもある飯田譲治さん。
川平さんのお話では、オリジナルにさらにおバカな部分が膨らんだということなので、初演を観た方にも初めて観る方にも楽しめる作品なのではと思います。
◆初演との違い『メンバー』
23年前の初演に出演していた川平さん、吉田敦さん、矢田政伸さん、そして今回演出を担当している松本匠さん。それ以外のキャストは新しいメンバーばかりだそうです。
さらには、今井さんの作品「守ってあげたい」に今井さん自身がいない舞台は初めてということで、稽古中も全然雰囲気が違うことで改めてみんなで作品を作り上げていくという意識が高まったそうです。
今井さんの思いを大切にしながらも、新しいものも取り入れていくという姿勢が、今井さんにもお客さんにも初演以上に喜んでもらいたいという思いがあるのが伝わってきました。
◆初演との違い『ダンス』
舞台冒頭から始まるダンスシーンは、初演には全くなかったものだそうです。
劇団四季出身の北村岳子さん、ダンスが得意な吉田芽吹さん以外の出演者さんの中には、これまでダンスをしたことがないという方もいらっしゃるそうです。CMやサッカーのイメージが強い川平さんがダンスを踊る想像がつきにくかったのですが、実はデビュー当時からミュージカル経験が豊富なのだそうです。
現役大学生から23年前に初演を演じた役者さんまで、幅広い年齢層・さまざまな分野で活躍する役者さんたちが、同じダンスシーンを最高に盛り上げるために毎日懸命にレッスンを繰り返しています。そんな日々の努力や思いがあるからこそ、このダンスシーンは舞台の中でも見逃せない大切なシーンの一つとなっているのでしょう。
◆初演との違い『オリジナル曲』
そして、このダンスシーンを盛り上げる曲は、この舞台でしか聴けないオリジナル曲となっています。
このオリジナル曲を創ってくれたのは、ヴィジュアル系ロックバンド・SOPHIAのボーカリストである松岡 充さんです。
川平さんとは普段から親交があるとはいえ、期間限定の舞台でしか流れない曲を提供してくれたことは、深い絆や温かい思いがあることが伝わってきます。
◆家族のようなご縁
こうしてお話を伺っていくと、いろんなご縁でこの作品を創り上げているのが見えてきました。
稽古場に円を描くように椅子に座ってお話をしてくれている皆さん、その陰にいるスタッフさんや関係者さんたち、全てがそういったご縁でつながれるからこそ、より一層稽古や役、ストーリーに向き合うことができるのでしょう。最初は部活のような雰囲気だと思っていましたが、一つの家族のような深い繋がりによって結ばれている気がしてきました。
◆いろんな特性のあるメンバー
プロデューサーでもある川平さんはやはりムードメーカーで、いつも前向きにみんなを盛り上げてくれているそうです。川平さん自身は、みんなに自由に泳がせてもらっているととても謙虚です。
一番年下で現役大学生の千葉一磨さんは、おっとりした雰囲気でみなさんの癒しになっているようです。初演の23年前は千葉さんがまだ生まれていませんでした。今回の取材を通して、改めて共演者の思いを知り、ますます役に向き合わなくてはいけないと身を引き締めたそうです。
ヒップホップダンスが得意な吉田芽吹さんも、今回新しく参加した一人。お芝居をみんなで創り上げていく感じがとても好きだといいます。
横関健悟さんは、声優としても活躍している役者さん。今回は、6人兄弟の一員ではないので少し孤独だと苦笑していました。セリフを言うよりも、いでたちや動きで感情を見せることが多い役とのことですが、それを見事に演じていると川平さんも絶賛していました。
劇団四季出身の北村岳子さんは、今井さんと夫婦役で共演して以来のつきあいで、家族のような思いでいるそうです。気さくでみんなのことを気にかけてくれている頼れる素敵な役者さんです。
ドラマ・映画・舞台などで活躍中の浜谷康幸さん。「いつも通りやるだけ」とシンプルな一言でしたが、その後に続けた『あちこちから初演「守ってあげたい」がとても面白かったという高い評判を耳にしているので、今井さんのためにも初演を超える舞台を目指します!』と、とても熱い思いを語ってくれました。
七海さんは、映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」で、今井さんのオーディションを受けてからその素直さや明るさが共演者や観客の心を惹き付け、引き続きこの舞台にも出演することになりました。実は、今回の舞台の役名と映画の時の役名がまったく同じなのだそうです。でも別人で役どころも全然違うとのことで、映画を観た方にはそんな楽しみもできましたね。
吉田敦さんは、演技指導や振付師のお仕事もされているベテラン俳優さんです。初演からずっと関わってきたため、今井さんのやり方や思いを一番知っている方かもしれません。再演にあたって、今井さんのいない舞台と向き合うことで新たな気づきがあるそうで、それをよりいい作品作りに役立てようと日々みんなと話し合いを重ねているとのことです。
奈良橋陽子さんのもとで演技を学び、今井さんの作品「THE WINDS OF GOD」などにも出演してきた矢田政伸さん。過去に再演されてきた「守ってあげたい」にも出演。稽古場に誰よりも早く来ているそうです。
こうしてそれぞれの得意や個性が尊重しあいながら活かされているからこそ、とても心地の良い空気が稽古場にも流れているのだと思いました。
出典劇団東京演者兄弟会
◆全ての思いを演出に
こうした一人一人の個性を活かしながら、一つの舞台を作り上げていく重要な役割を担っているのが今回演出を担当している松本匠さん。
これまで俳優、演出、劇団主宰など演じる側としても演出する側としても活躍をしてきた松本さん。今井さんとは長年共演してきた間柄で今井さんの思いや表現を熟知しているため、今井さんのいない舞台を制作するにあたって最良の演出家さんといえるでしょう。
しかしながら、知っているからこその苦悩が松本さんにはあったようです。
今井さんの脚本をリライトしてくれた飯田さん、プロデューサーである川平さん、今井さんの思いを大切にしながら、劇団東京演者兄弟会としてどういう形にしたいのか?などを全て汲み取りながら、松本さんとしての演出も入れていかなくては……と考えると、正直毎日苦しいそうです。それでも寝る前には早く稽古場に行きたくなるくらいその苦悩自体も充実感となっているのです。
初演を観た方も、初めて観る方も、演じる役者さんたちもみんなが良かったと思える「Enjoy& Respect!」を目指しているとお話してくれました。
取材中も出演者さんたち一人一人の言葉を真剣に聞きながら、頷いたり何かを考えているような姿は、そういった思いがあったからなのだと思いました。
松本さんがお話を始める前に「日本一話を聞く演出家」と川平さんが少し冗談交じりに紹介していたことが、松本さんのお話を聞いていてそれは本当なのだろうと納得しました。
◆真剣な稽古の様子
インタビュー後に稽古が始まると、一人一人が真剣な表情です。
それと同時に仲間のことも思う気持ちに溢れているのが伝わってきました。
先輩後輩、得意不得意など一切関係なく、それぞれが補完しあったり、伝えあったりする姿がさりげなく行われていました。
ダンスシーンの稽古では、
「もう一回お願いします!」という声が飛び交っていて、清々しさを感じました。さらに驚いたことに、演出を担当している松本さんも一緒にダンスの稽古をしています。
本当にいいものを創りたい、そのためにはみんなで向き合う。
パワーだけではなく、一人一人が理解して、輝いてこそ作品として輝くのだと。
出典取材中に撮影
◆守りたいものは?
取材の最後に、みなさんの守りたいものについて伺ってみました。
真面目なことと、ささいなことや自分だけのこだわりのようなことの2つをあげてもらいました。
どうやらパンフレットに、同じ質問と答えが書かれているようです。そのため、あえてお名前は書いていません。
ぜひ、劇場にお越しの上、どの方が何を守りたいのか?を見つけてみてくださいね。
Aさん
・「人の誇りと尊厳」と「進級」
Bさん
・「家族」と「適正体重」
Cさん
・「家族」と「毛根」
Dさん
・「微々たる預貯金」と「時間」
Eさん
・「両親」と「食生活」
Fさん
・「自然」と「内臓」
Gさん
・「嫁と猫」と「一杯目のビール」
Hさん
・「みんなの夢」と「白い自転車」
Iさん
・「この劇団・仕事、そして出演中のCM」と「サウナ時間」
Jさん
・「娘たちと妻」と「ナンプレ(自分の時間)」
Kさん
・「家族」と「健康」
真面目な答えの方では、やはり家族が多いですね。
そして少しくだけた方では、みなさん個性的です。
表現や理由が異なっていても、自分を大切にすること、身近な周りの人たちのことを思っていることが共通していました。世の中いろんなものがあるけれど、本当に大切なものはシンプルなのだなぁと思います。
舞台を観ながら、いつの間にか自分の大切なものを考えているでしょう。
当たり前になっているものがとっても大切かもしれません。
みなさんの守りたい大切なものが心にそっと浮かんでくる
のではないでしょうか。
出典取材中に撮影
◆舞台「守ってあげたい」公演情報
[公演期間・会場]
●2016年8月25日(木)~30日(火)
●2016年9月4日(日)
[出演]※敬称略
川平慈英 / 北村岳子/ 浜谷康幸/ ポケ /千葉一磨/ 横関健悟/ 今谷フトシ/吉田芽吹/七海 / 矢田政伸/吉田敦
●プロデュース: 川平慈英
●脚本: 飯田譲治
●演出: 松本匠
[STORY]
死後の世界の入口にある「守護霊裁判所」で判事官を勤める六人兄弟。彼らの仕事は亡くなった人たちの生前の所業をもとに、魂が天上界へ行けるか否かを審議すること。
仕事の合間には歌ったり踊ったりと、愉快に毎日をすごす彼らのもとに、ある日やってきた初老の男(被告)はやっかいな問題を抱えていた…。
[企画・製作]
東京演者兄弟会 守ってあげたい
[チケットお申込み]
●新宿シアターモリエール
http://stage.corich.jp/stage_detail.php?stage_id=71652
http://ticket.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=1611788&rlsCd=001
http://eplus.jp/sys/T1U14P002181769P0050001
●四日市市文化会館
http://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=1617751
◆今井さん追悼映画情報
今井さん脚本・川平さん・七海さん出演!
映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」
http://www.teotsunaidekaerouyo.com/
まだまだ各地で上映中です。
記事:あなたの物語応援ライター ささきまりこ
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